図面上にてデザインが決定し、木地(漆を塗る前の器)の試作として1点、木地屋さんにオーダーしていたものが届きました。
こちらは、作家さんのもとに届いたプレーンな木地。
木から削り出しただけの木地は、乾燥やゆがみなどがおこりやすいということで、
届いてすぐに、作家さんのもとで目止めの漆が塗られます。さらにそこに、下地として錆漆(さびうるし)、また更に黒漆と、すでに4回ほど塗り重ねられたものがこちらです。
錆漆(さびうるし)とは。それを塗ることで、木地を強化するほかに、塗り重ねられる漆と木地の間のクッションとなって、保温効果を高めてくれるのだそうです。
ここからさらに、数十回と漆が塗り重ねられていくことになりますが、
手にするとすでに、器としての存在感とともに、神々しいとも言えるフォルムの美しさがありました。
日常のご飯をいただく器に対する表現としては、いささか大げさなのかもしれませんが、手の中におさめた感触や、すっと置かれたたたずまいは、やはり特別な感じがします。
実際にご飯を盛り、いただいてみました。
白いご飯と、器の余白とのバランス。ご飯がとてもよく映えます。
手に持った姿にも、凛とした美しさがありながら、
手にする感触と扱いやすさは、飯椀としてごく自然で、機能としても問題なさそうです。
こちらを再度、作家である色英一氏にお戻しして、さらに数十回と漆が重ねられ、試作品としてまずは1点、完成形まで仕立てていただくことになります。
ところで。
このプロジェクトにより、漆をほどこしたひとつの器が出来上がる工程を、初めて知ることができています。ですが、言葉で解説をいただいて、頭ではなるほどと理解しているつもりでも、実は想像しきれていないことがいろいろとありました。
漆を塗る、とひとことで言っても、どうやって?どんな風に?どれくらいの時間で?などなど。
そこで、器を直接お持ちしながら、氏がアトリエにてどんな風に制作をされているのか、その様子を見せていただけないかとお願いをしてみました。
漆を扱う繊細な工程ですので、いくつかの注意点を守ることを条件に、特別に許可をいただくことができました。
まずは、漆を塗る作業の前に、決めなくてはならないことがありました。
仕上がりに関わる、下塗りの状態から「表面を研磨するか、しないか」について。
この時は、錆漆(さびうるし)を塗った時にどうしても出る、塗りムラが表面にあります。
研磨して表面をなめらかにするか、あえてそのムラを、器の表情として残すか。
残す場合は、一点ずつの表情として、それぞれ違ったものになっていくそうです。
お話を伺いながら、悩みましたが、結論は、器の内側は研磨し、外側はそのまま表情を活かす、ということになりました。
この工程は、水で濡らしながらの作業なので、台所で。
作業としてはものの2分ほど。
10分ほどおいて乾かしたら、今日の漆塗りの作業へ。
こちらは、研磨後の器の表情。
さて、漆を塗る場所ですが、「漆部屋」としてアトリエの中で別室が確保されていました。当然通常は、制作者以外の立ち入りはできません。
湿度や温度はこまやかに管理されており、こまかなほこりなど、身に着けるものに注意してほしいと、事前に連絡をいただいていました。
モヘアや毛の衣類などはNG。
「今日の塗り」と書きましたが、1日の塗りの作業は1点あたり5分ほど。
内側が乾かないと外側を塗ることができないので、内側だけを手早く塗り、器の室(むろ)に入れて1日おいて乾かすそうです。
これを、数十日くりかえすのだといいます。
内側が塗られた状態。これを、室(むろ)に収める。
道具の置き方、使い方、しまい方、すべてがこまやかで、意味のある決まりがあって、
その手なれた流れるような一連の作業を見ていて思ったことがありました。
作家、色英一氏の制作は「作法」だなと。
茶道や食事などをはじめとして、いろいろなことに「作法」がありますが、それは、たんなる決まり事ではないのだと、先日別のある方からお聞きしました。
「作法」として決められたことには、ものの丁寧な扱い方、またその手順などのこまやかな決まりがありますが、それはもっとも理にかなっている行為だということ、そして、「作法」の行いにはその人そのものが映るのだそうです。
でき上がっていく作品には、この制作風景の凛とした空気感が浸透してゆく気がしました。
作家の横顔から、そんなことを感じた一日。
※Instagramの喫禾了のアカウント@kikkaryoでは、喫禾了と色英一氏とのライブミーティングを公開しています。次回は、今回の記事の内容にからめて、またいろいろと伺う予定です。
制作に関わるミーティングをライブ上で行っており、インスタライブ限定公開ですので、よかったらフォローしていただけましたら幸いです。